今回は「はばかる」という言葉の意味について解説します。
「はばかる」には「①遠慮する・気を遣う」と「②幅を利かせる・権勢を振るう」という、一見反対の2つの意味があります。

「はばかる」って「遠慮する」の意味なの?「幅を利かせる」とはどう違う?
同じ「はばかる」という言葉なのに、場面によって正反対ともいえるニュアンスで使われる興味深い動詞です。
この記事では「はばかる」の2つの意味、語源、使い方・例文、「はばかり」との関係、類義語・対義語まで深掘りしています。
興味がある方は記事の続きへどうぞ。
はばかるとは?意味は「遠慮する」と「幅を利かせる」の2つ
「はばかる」の意味=①遠慮する・気を遣って控える ②権勢を振るう・幅を利かせる
「はばかる」は同じ読みでも文脈によってほぼ正反対のニュアンスで使われます。
①の「遠慮する・憚る」は「人目や礼儀に配慮して控えめにする」という意味です。「人目をはばからず泣く」「はばかりながら申し上げます」のように使います。
②の「幅を利かせる・権勢を振るう」は「勢力を広げて思いのままにふるまう」という意味です。「悪がはびこる→悪がはばかる」の意味で古文によく登場します。
現代語では①の「遠慮する」の意味が主に使われますが、②は古文で頻出です。
はばかるの語源・成り立ち
「はばかる」の語源=「幅(はば)」+「かる(刈る・広がる)」で「幅を広げる」が出発点
「はばかる」の語源は「幅(はば)」と動詞語尾の「かる」が合わさったものとされます。
もともとは「幅を広げる・幅を利かせる」という意味でした。権勢を張って広がる様子を表していたのが②の意味です。
やがて「他人の幅を狭める(邪魔する)→相手に遠慮させる→自分が遠慮する」という意味の変化が起き、①の「遠慮する」という現代的な使い方へと発展したと考えられています。
「幅を広げる」が「遠慮する」にまで発展するとは、言葉の変遷は面白いですね。
はばかるの使い方・例文
「はばかる」の2つの用法を例文で確認しましょう。
日常でよく使う①と、古文でよく出る②の違いを意識すると理解が深まります。
使用例① 「遠慮する・気を遣う」
人目や礼儀・状況に配慮して行動を控えるという場面での使い方です。
葬式の場で笑うのははばかられるよね。
そうですね。「はばかられる」と受身・可能形にして「遠慮すべき状況だ」という意味によく使います。
使用例② 「幅を利かせる・権勢を振るう」(主に文語)
勢力を広げて我が物顔にふるまう、という意味の古語的・文語的な用法です。
「悪がはばかる世の中はごめんだ」という表現、小説で見た気がする。
「はびこる」と似た意味で、権力者や悪者が勢いを増す様子を表す古典的な表現です。
使用例③ 「はばかりながら」という慣用表現
「おこがましいようですが」「恐れ多いですが」という前置きをしながら、自信を持って主張するときに使う慣用表現です。
「はばかりながら、その件は私の方が詳しいと思います」ってどんな雰囲気?
「遠慮がちに言いますが」という謙遜の形を取りながら、自信を持って意見を述べる丁寧な表現です。
「はばかる」の類義語や対義語
「はばかる」に近い言葉と、反対の意味を持つ言葉を確認しましょう。
はばかるの類義語
遠慮する(えんりょする)
「はばかる①」と最も近い言葉。相手や状況に配慮して控えめに行動すること。「はばかる」より日常的でよく使われます。
「遠慮する」は日常語として使いやすく、「はばかる」はやや文語的な印象です。
気兼ねする(きがねする)
相手の気持ちを気にして行動を控えること。「遠慮する」より個人的な感情(気後れ・気遣い)が前面に出た表現です。
「気兼ねなく言ってください」のように、相手への心理的なハードルを指す場合によく使います。
はびこる
「はばかる②(幅を利かせる)」に近い言葉。草木が茂り広がるさまや、悪いものが広がる様子を表します。
「悪がはびこる」と「悪がはばかる」はほぼ同じ意味合いで使えます。
はばかるの対義語
遠慮なく(えんりょなく)
「はばかる(遠慮する)」の対義語にあたる表現。気にせず自由に行動・発言する状態を指します。
「遠慮なく召し上がってください」のように、相手の気遣いを解く場面で使います。
はばかるの豆知識・ちょっといい話
最後に「はばかる」にまつわる面白い雑学を紹介します。
トイレを「はばかり」と呼ぶ理由
トイレの古い呼び名「はばかり(憚り)」は、「はばかる(遠慮する)」から来た言葉です。
用を足すことは「人目をはばかる(遠慮してこっそり行う)」ことであり、そこから「はばかりに行く=トイレに行く」という隠語が生まれました。「お手洗い」「厠(かわや)」と並んで、日本語のトイレを表す古い婉曲表現のひとつです。
「ちょっとはばかりへ」という表現、今でも時代劇などでたまに耳にしますね。
「はばかりながら」は江戸時代の粋な表現
「はばかりながら、私の腕をご覧に入れましょう」——江戸時代の職人や芸人がよく使った、謙遜と自信を同時に表す言い回しです。
「はばかりながら」は「差し出がましいとは思いますが」という意味で、相手への礼儀を示しながら自信ある技を披露する場面に使われました。現代語で言えば「おこがましいですが、ちょっと見ていてください」に近いニュアンスです。
謙遜しながら自信を見せるこの言い方、現代でも使えばかっこいいですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。「はばかる」は「遠慮する」と「幅を利かせる」という2つの顔を持つ言葉です。「はばかりながら」を会話に取り入れると、少し上品な印象を与えられます。ぜひ使ってみてください。