今回は「ほかす」という方言について解説します。
「ほかす」とは、いらない物を処分する・手放すという意味で、日常のなにげない場面でよく使う方言です。

「これほかしといて」と言われて、思わず大事にしまってしまった、という人もいるんですよ。
主に大阪を中心とした関西(近畿)地方で使われます。
この記事では「ほかす」の意味やどこの方言か、由来・語源、使い方、類義語まで深掘りしています。
興味がある方は記事の続きへどうぞ。
ほかすとは?意味は「捨てる」
「ほかす」の意味=捨てる・処分する・放り出す
ほかすは、いらなくなった物をゴミとして手放すときに使う言葉です。
標準語の「捨てる」とほぼ同じ意味で、関西では子どもからお年寄りまで自然に使います。
「これほかしといて」と言えば、「これ捨てておいて」という意味になります。



関西では「捨てる」よりも「ほかす」のほうが、口になじんでいる人も多いんですね。
ところが、この言葉は県外の人にうまく伝わらないことがあります。
「ほかしといて」を「(大事に)保管しといて」と、まるで反対の意味に受け取ってしまう取り違えが起きるからです。



捨てるつもりが、しっかり保管されていた、なんて行き違いも起きてしまうんですね。
ほかすはどこの方言?
ほかす=大阪を中心とした関西(近畿)地方の方言
ほかすは、大阪・京都・兵庫・奈良など、近畿一帯で広く使われる方言です。
関西では標準語のつもりで使っている人も多く、県外で通じないと知って驚くこともあります。
同じ関西には「ほる」という言い方もあり、こちらは「放り投げる」に近いニュアンスで使われます。
「ほる」が勢いよく放るイメージなのに対し、「ほかす」はきちんと処分する感じが強い、という違いを感じる人もいます。



「ほる」と「ほかす」、どちらも関西でよく耳にする言葉なんですね。
関西の人にとっては当たり前でも、ほかの地方の人には新鮮にひびく言葉のひとつです。



関西を出てはじめて、これが方言だったと気づく人も少なくないようですね。
ほかすの由来・語源
ほかすの由来には諸説あります。有力な説を順に見ていきましょう。
語源①:「放下(ほうか)す」が変化した説
有力説=古語「放下(ほうか)す」が音変化して「ほかす」になったという説
ほかすは、「うち捨てておく・手放す」を表す「放下す」が、なまって生まれたと考えられています。
「放下」はもともと、物を投げ捨てる・手放すという意味を持つ言葉でした。
その「ほうかす」が、関西の言葉のなかで「ほかす」へと短く変化していったと言われています。



もとの「放下す」と並べてみると、音のつながりに納得がいきますね。
語源②:禅語・大道芸の「放下」と結びつける説
別説=同じ「放下」でも、禅の言葉や中世の大道芸と結びつける見方もある
「放下」には、執着を手放すという禅の教えや、中世に物を投げてあやつる大道芸を指す使い方もありました。
こうした「手放す・放り投げる」というイメージが、「捨てる」の意味につながったとする見方です。
いずれの説も「放下」という言葉が根にある点は共通していて、断定はできないものの興味深いつながりです。



同じ「放下」から、いくつもの説が枝分かれしているのはおもしろいところですね。
古くから使われてきた言葉
ほかすは、室町時代ごろから使われてきた歴史の長い言葉だとも言われています。
新しい流行語ではなく、長い時間をかけて関西の暮らしに根づいてきた言葉だという点が特徴です。



何百年も使われ続けてきた言葉だと知ると、ぐっと味わい深く感じますね。
ほかすの使い方・例文
「ほかす」を使った会話を見ていきましょう。
「ほかしといて」「ほかしとこ」のように、ふだんの片付けの場面でよく登場します。
使用例① いらない物を片付けるとき
古い段ボールを前に、家族と相談している場面です。



この空き箱もう使わへんし、まとめてほかしといてー。



(捨てておいて、ってことね)じゃあ今日のゴミと一緒に出しておくね。
使用例② 取り違えあるあるが起きるとき
関西の人と県外の人で、意味がすれ違ってしまった場面です。



そこの紙くず、ほかしといてって頼んどいたやんか。



えっ、大事な物かと思って引き出しに保管してました…!



ほかす=捨てる、やで。逆に丁寧にしまわれてたんかいな。
使用例③ 「ほっといて」と言うとき
「ほかす」が縮まった「ほって」「ほっといて」を使う場面です。



その割れたお皿、危ないしほっといて。



(そのままにしておいて、じゃなく捨てて、なのね)了解、ちゃんと処分しておくね。
標準語の「ほっといて=そのままにして」と形がそっくりなので、ここでも取り違えが起きやすいところです。
ほかすの類義語や対義語
ほかすの類義語と対義語についても見ていきましょう。
ほかすの類義語
ほかすに近い標準語や、他地域の似た方言には下記のものがあります。
捨てる・放る・処分する(標準語)
捨てる・放る・処分するは、いらない物を手放すことを表す標準語です。どれも「ほかす」と同じ場面で言いかえられます。



「ほかす」を県外で言うなら、「捨てる」に置きかえると安心ですね。
ほる(関西の方言)
ほるは、関西で「捨てる・放り投げる」を表す方言です。ほかすと意味は近いものの、勢いよく放るイメージが強めです。



同じ関西でも、「ほる」と「ほかす」を使い分ける人がいるんですね。
なげる(北海道・東北の方言)
なげるは、北海道や東北で「捨てる」を表す方言です。「ゴミなげといて」のように使い、ほかすと同じ働きをします。



「捨てる」を表す言葉が、地域ごとにこんなに違うのはおもしろいですね。
ほかすの対義語
ほかすは「捨てる」なので、反対は「とっておく・しまう」を表す言葉になります。
なおす・しまう・とっておく
関西では「なおす」が「片付ける・しまう」を表します。「ほかす」が手放すのに対し、「なおす」はきちんと収納する、まさに反対の動きです。



「ほかす」と「なおす」は、捨てると片付けるで正反対なんですね。
ほかすの豆知識・ちょっといい話
ほかすをもっと深く知れる、ちょっとした小話を紹介します。
県外で一番戸惑う関西の動詞のひとつ
ほかすは、関西を出た人が「通じなかった」と語る方言の上位常連です。
「ほかしといて」を頼んだら、捨てるどころか丁寧に保管されていた、という取り違えあるあるがよく知られています。捨てると保管で、まるで反対になってしまうのが戸惑いの正体です。



頼んだほうも頼まれたほうも、悪気がないだけに笑い話になりやすいですね。
「なおす」と並ぶ、県外で通じない動詞コンビ
関西には、ほかすと並んで「なおす=片付ける・しまう」という県外で通じにくい動詞があります。
「これなおしといて」を「修理しといて」と受け取られる行き違いも、ほかすと同じくらい有名です。捨てる「ほかす」と、しまう「なおす」は、関西の二大すれ違い動詞といえます。



「ほかす」と「なおす」をセットで覚えておくと、行き違いを防げそうですね。
最近は「捨てる」を使う人も増えている
長い歴史を持つほかすですが、近年は関西でも標準語の「捨てる」を使う人が増えていると言われます。
テレビやネットの影響で言葉が混ざり合うなか、味わいのある方言として大切にしたいという声もあります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。関西で「ほかす」と耳にしたら、いらない物を手放す言葉なのだと思い出してみてください。